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「原発事故から四年~福島のいま

 上映会&トークレポート

刊行からもうすぐ一年、加須での初めてのイベント

 昨年の春に刊行の『なぜわたしは町民を埼玉に避難させたのか 証言者 前双葉町町長 井戸川克隆』(以下『なぜ~』)。2011年3月の東日本大震災、そして福島第一原発の事故の直後に、町民を連れて県外に避難した福島県双葉町の元町長、井戸川克隆さんの体験を綴った書籍です。

 井戸川さんはそれ以降、埼玉県加須市で避難生活を続けながらその稀有な体験を伝えるため、全国各地で講演活動を行ったり、2014年には福島県知事選挙に立候補したり、と精力的な活動を行ってきました。体調不良に苦しみ、体力の衰えを感じながら活動を続ける井戸川さんの声を、現在の地元で志ある方に伝えたいという思いから、この本に関しては初めて弊社が企画したイベントを1月17日の日曜日、加須市の市民プラザかぞにて行いました。

 

 一月の半ばという寒い折、また決して交通の便がよくない加須市での開催となりましたが、当日は40人を越えるお客様が来場してくださり、開始前から会場は満杯。主催者としてはほっと胸を撫で下ろすとともに、「充実したものにしなくては……」という気持ちが高まりました。

 

市民プラザかぞの会場。40名を超える参加者の皆さんが集まった。

 イベントは前半に映像の上映、その後のトークという二部構成。映像は、以前から原発の問題に興味をもち、原発事故の直後に福島から埼玉に避難されてきた双葉町の方々の取材を始め、『原発の町を追われて』(2012年作。井戸川さんもインタビューで登場)などのドキュメンタリー作品を手がけた映像作家、堀切さとみさんが、『なぜ~』を読んだ後、自主的に井戸川さんに行ったインタビューを30分ほどに編集したもの。そして後半のトークでは、井戸川さんに加え、この堀切さとみさんと、『なぜ~』の共著者であるフリーライターの佐藤聡さんが登壇してくださいました。

井戸川さんのインタビュー映像を

制作・編集した映像作家の堀切さとみさん。

歯がゆい状況に響いた、遠慮のない発言

 前半に上映した『原発事故から四年が過ぎて~井戸川克隆氏(前双葉町町長)が語る』は、2015年の5月に収録されたもの。未曾有の原発事故が起き、福島県からの避難を井戸川さんが決心した際のこと、避難先の埼玉県加須市への思い、そして井戸川さんが町民の方々を“避難させた”ことへの責任を感じられていること、など本では語られていないところまでの言葉が記録されています。そして、2014年春に勃発した「『美味しんぼ』の鼻血問題」、「ふたば未来学園」(2015年4月に福島県双葉郡広野町に開校)について、2014年の福島県知事選などについての井戸川さんが遠慮のない発言をされています。さらに、現在の政権の政策(原発の再稼働の促進、憲法改正の動き等)についての意見など、さまざまな問題を広い視野から見ている井戸川さんの一面をも垣間見ることができるものでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこの映像の上映後、井戸川さん、堀切さん、そして佐藤さんの三者によるトークの時間へと移りました。まずはこのドキュメンタリー映像について堀切さんに話をお聞きし、その後『なぜ~』の共著者で、この本を企画したフリーライターの佐藤さんの発言がありました。

 

 『なぜ~』は刊行以来、マイペースで売れ続けており、特に井戸川さんが各地の講演会に赴かれた際に紹介して頂き、そしてその都度原発問題に関心をもたれている方には注目して頂いている状況がありながら、そのことがなかなか大きなうねりになっていかない歯がゆい状況を、佐藤さんは率直に話して下さいました。

 

 

インタビュー映像では「オブラートに包まず、

言いたいことを言った」と井戸川さん。

福島をめぐる状況の複雑さ、歯がゆさを吐露する

共著者の佐藤聡さん。

それでも抗い続ける、希望をもって

 イベントのタイトルとした「福島のいま」についての話は、なお混迷する実態を実感しました。“除染”のこと、表面上は隠蔽されていながら、しだいに明らかになりつつある健康被害のこと、福島県内とその外での意識の違いなどについて。そして現在の世間一般での福島への“無関心”について。話を続けるほどに、失望感が増してしまうような状況。ここからの出口はあるのだろうか、という思いが私の頭の中にも過りました。
 

 
 そんな中、井戸川さんが発言されたことに一筋の光を感じました。「希望をもっている」という一言です。前述したようなさまざまな困難、自らの体調不良、そして福島原発訴訟の進行状況などについても意のままにならない歯がゆさを感じながら、それでも世間一般の人達が大まかには原発に否定的な意見をもっていること、それが選挙などの意見表明の場で具体的な結果として現れてこなくても、ある程度定まった見方として一般の国民の間に定着しているという状況を汲み取っての発言だと思います(実際、右派左派とさまざまな新聞等のメディアでのアンケートでも、原発に否定的な意見が大半を占める状況はある)。この重要な事実を踏まえ、事故当時はもちろん、それ以降も苦難の日々を過ごされている井戸川さんの言葉だけに、心うたれるものを感じました。また、堀切さんはそんな井戸川さんの活動を、ご自身の活動によってサポートしていきたいと発言。
 


 そして、井戸川さんの活動に関心をもって集まって下さった方の声をお聞きしたく、会場の皆さんにもマイクを向けました。最初こそなかなか声を上げて下さらなかったのですが、しだいにぽつりぽつりと質問だけでなく、意見や激励の声をお聞きすることができました。中には『なぜ~』を自主的に多くの方にすすめ、売って下さっている方、訴訟など井戸川さんの活動を個人的に支援して下さっている方など。
 
 
 
 進行が慣れていなかったせいか、こうした会場の皆さんと、3人の登壇者の方々との対話というかたちにできなかったということが悔やまれるのですが、井戸川さんというひとりの証言者に注目し、その活動を支えていこうという力が衰えていることはない、という現状を確認することができたと思っています。これは、『なぜ~』を編集・刊行した弊社としても、率直にうれしいことであり、また引き続きこの本を広めていくことへの意欲を新たにした会となりました。

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